滝と悟りとお断り


滝のそばに住んでると、ロクなことがありません


しょっちゅう、水しぶきを浴びるし
家の中は、湿気でジメジメするし
何と言っても、水の音がうるさい!


ドドドドドだの
ゴゴゴゴゴだの


荒木比呂彦の漫画じゃあるまいし!
せめて夜ぐらいは止まっとけよ、滝!




でも、音とか湿気とかは慣れますからね
一年も経てば、そうは気になりませんよ


一番厄介なのは、近くで悟りを開かれたりすることですね


滝といえば修行


結構、そういう坊さんって、未だに多いのですよ


で、住職になりそこねちゃった坊さんが来たりするわけです
わざわざ、ウチの近所の滝に修行しに・・・


あれ気分悪いですよ、意外と


だって、こっちは滝のそばに始終いるのに、悟りなんか開けてない
なのに、のこのこ他所から来た坊さんが、悟りを開かんと滝に打たれる


まるで私ら近所の者は、今までサボってたみたいじゃないですか


って言ったって、こっちには生活がありますからね
掃除だ、洗濯だ、今日はゴミの日だ、仕事も探さなきゃ、とか
そうそう悟りに開眼しているヒマなんか無いわけですよ


で、そんなこっちを見てるんだか見てないんだか
坊さんは、俗人の世界なんて関係無いって顔で、済まして滝に打たれてやがる


ホントねぇ
どうせなら、ナイアガラか何かで打たれりゃいいんですよ
南米ギアナ高地の、落差2千メートルぐらいあるエンゼルフォールとかね


スーパーで特売の挽き肉とか買って帰ってくるとね
一心不乱にお経とか唱えてやがるのが、またムカつくんですわ
悟りになんか興味無いのに、こっちも何となく悔しくなってね
晩飯のハンバーグ捏ねてる最中に、ふと見よう見まねで印を結んでみたりして
そうすると指と指の間から、挽き肉がムニュっと・・・


ああっ!ちくしょうハンバーグが!


ハンバーグ台無しで、ぷりぷり怒りながらミートソース作るんです


でも、いいんですよ
それで悟りさえ開いてくれりゃ、どっか行っちゃうんだから


もうホント嫌なのは、そこで倒れられること


これが一番イヤ!


朝、ゴミ出しがてら、今日も打たれてんだろうなって見るじゃないですか
滝の方を・・・ウンザリした気分で・・・


すると
今まで、頭頂部を中心に滝に打たれてた坊さんが全面的に打たれてる
なんかもう、背面全体で滝に打ちのめされてる感じ


まずね
あ〜あ
って思うわけです


で、見なかったことにしようかな?って思うんですけど・・・
さすがに放っとけないんですよ、幾らなんでもね


仕方ない
なんかもう、息とかしてなさそうだけど119番に掛けるんですね


その後は、もうお決まりの展開ですね


救急隊員、警察、マスコミ・・・
第一発見者、ってことで事情聞かれまくり


しょうがないから、全部に経緯を説明して・・・


で、後で新聞の見出しを見てみると


現代の苦行僧
道半ばに滝つぼに消ゆ


とか、書かれてるんですよ


ちゃんと説明したろ!?
滝つぼに消えたんじゃなくて倒れてたんだよ!


オホーツクに消ゆ』じゃあるまいし、何だ「消ゆ」って!


と、そんなわけで


滝の近くにだけは引っ越さないようにしたいと思います


手塚治虫の『ブッダ』が読みたいなぁ